ドライアイスの体温、お別れの話

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先日、父が亡くなった。

突然すぎることで、未だに心が納得出来ていない。

2日前に会ってあけましておめでとうと挨拶をし合ったばかりなのに。


お昼頃に母から父がまた倒れたと連絡が来て、慌てて病院に向かうも着いた時には泣きじゃくる母と心臓が止まっている父がいた。

どうやら運ばれている時点で、心肺停止の状態だったらしい。ecmoを付けてなんとか心臓の蘇生が出来ないか試みてもらうが、やはり父の心臓はもう動かなかった。

(ecmoで心臓が動いたとしても脳死の可能性があるとも言われて、私は一瞬その先のことを考えてしまったけれど、なんとかもう一度生きている父に会いたかったからそれに縋った)


ICUのドアが開くたびに、僅かな期待とどうしようもない不安感や絶望感でぐちゃぐちゃな気分だった。もうあんな気分体感しないと思っていたのに。

ICUのドアが開く度に、急かされる焦燥感を抱くのはもうごめんだと内心どこかで思っていた。

どこかで、きっとあれだけいろんなことを乗り越えた父だから絶対大丈夫。そう信じていた。


14:48医師から父の死亡を告げられる。

死因は急性心筋梗塞だった。


その日はしっかり朝ごはんを食べて、作業所へ向かったらしい。

作業所についてから、しばらくして父の息の仕方に異変があると気付いてくれた作業所スタッフの方が「大丈夫ですか?」と様子をみると、目の瞳孔が明らかにおかしく、直ぐにその場で救急車を呼んでもらうも病院までの車内で既に心肺停止。


運ばれる直前まで本人は大丈夫ですと言いながら、作業所での仕事を続けようとしていらしい。真面目か。

6年前に小脳出血で倒れた際も、父は仕事をしている最中だった。

一年あまりの入院からやっとの思いで家に帰ってきたときも、何かしら手先を動かしていないと落ち着かないようで、麻痺の残る指でギターを弾こうとしたり、免許の更新をしようと躍起になったりしていた。

その一年後には脳梗塞になってまた入院。

退院してからも高次脳機能障害のせいで荒れに荒れていた。何度泣かされたかと考えるも私も父を泣かしてしまったことがあった。ごめんねももう言えない。

今まで当たり前に出来たはずのことが、思うように出来ない。そりゃ周りに当たり散らしたくもなる。感情のコントロールだって、父自身が一番辛かったはず。


秋には心臓の検査も行って、まだまだ長生き出来ますよと言われていたのに。

どうしてという気持ちが数週間経った今でも拭えない。母は原因が自分にあるんじゃないかと、医師に尋ねるけれど、急性心筋梗塞は急性だから本当に突然起こるものでどうしようもない。母が自分を責めてしまう原因がなくなって少しホッとした私がいた。


最後の記憶が苦しんでいる表情じゃなくてよかった。穏やかで、私が知っているお父さんの表情をした寝顔だった。

最近は作業所が楽しくなってきて、外との繋がりが持てたことでだいぶ笑顔が増えていたし、怒る頻度も小脳出血から退院したての頃より断然減っていた。

6年前に知らないお父さんになって戻ってきた父は、私の知っているお父さんに面影が戻っていたようにも思える。

ご飯もちゃんと食べるようになって、以前よりふっくらしたり、趣味のプラモ、模型作りやDIYを毎日していた。

実家に帰る度に超大作が生まれていてびっくりしたな。細かい作業が好きなのは病気になる前から同じだし、運ばれる直前まで作業所での仕事をがんばってやろうとしたりする所が働き者で真面目すぎる父らしいと思った。


眠っている父のおでこや、手に触れるとドライアイスで冷やされているのでとても冷たい。もう生きている人の体温ではないんだなと実感させられる。

家に帰って、冷たい父の横で眠った。写真を撮った。


幼い頃の私が父に渡した手作りの交通安全お守り、父が作った木の模型、運転免許証、

ドライビングスクールのチラシ、最後に手紙を棺に入れた。

大学の卒業制作で、知らないお父さんへと手紙を書いたことがあって、その手紙を父に直接渡した訳ではないけれど、ずっとどこかでひっかかっていたから、ちゃんと私が知っているお父さんだったと大好きだと手紙を書いた。


式場でも写真をたくさん撮った。内心不謹慎って思われるのかそわそわしたけれど、家族葬だったので、誰にも怒られなかったし私が写真を撮っていると式場の人は急かさずにちゃんと待っていてくれた。

棺に入ったお花まみれの父を写真に収めて、

最後に冷たい頬をぎゅっと両手で触れた。


父の遺影を抱いて、火葬場へ行き

父の骨を家族みんなで拾った。

密度が高くて意外と強そうな骨だと思った。


肉体がある状態からお骨になるまでをちゃんと最後までそばで見ていたのに、感覚としてふわふわとしている。

いつも居たはずの人がいない状態の違和感。納得出来ない気持ちの混在。


親がいなくなることなんて誰にでも起こり得ることだし、これから先もまだ起こるんだと分かっていても、気持ちの整理がつかないとはこういうことなんだろうな。

気持ちの整理はまだまだつかないけれど、良かったこともある。


死化粧を直してくれた納棺師の方がすごく優しい人で、棺に入る前の父とハグをさせてくれた。

母と父が抱き合っている姿なんて今まで見たことがなかったけど、ちゃんと二人の間に愛情を感じて私はこの両親の娘でよかったと思えた。


私が父とハグをすると、納棺師の方が「お父さんに頭撫でてもらいましょ!」と私の頭を撫でるように父の手を動かしてくれて、あぁ、私はこれを糧にまだ頑張れるなと思った。


自慢の娘であれるように、踏ん張る頑張る。


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